
Irving Penn
アーヴィング・ペン
ファッション写真の撮影で知られるアーヴィング・ペンは、1917年、アメリカ・ニュージャージー州で生まれました。
フィラデルフィア美術大学でファッション雑誌「ハーパース・バザー」のアートディレクターとして有名なアレクセイ・ブロドビッチのもとで学び、1938年に卒業しています。その後、「ハーパース・バザー」誌にイラストが掲載され、絵も描きましたが、程なくして写真の才能が開花し、彼は第二次世界大戦後のおしゃれでシックなファッション写真撮影の第一人者として知られるようになりました。そして、「ヴォーグ」誌で長年にわたりファッション写真の撮影を手がけました。
彼はシンプルなグレー、または白といった背景にモデルを効果的に配置することに成功した最初のカメラマンの一人です。また、それまでのカメラマンがスタジオの照明を駆使していたのに対し、ペンは窓から差し込む自然光を巧みに取り入れました。ニュー・ギニアやペルーなど世界中を旅行して、先住民の写真を撮るときも、北向きに天窓の開いた仮設の移動式スタジオを作り、非常な効果をあげています。
一番最初の、おしゃれなドレスに身を包んだ美しい女性のポートレートは、ファッション写真の分野でのアーヴィング・ペンの傑作です。
この写真は、表面的には19世紀の肖像画のような、飾り気のない質素な雰囲気が漂っています。
一見すると、衣装の豪華な質感も感じられず、舞台装置のような派手な照明もなく、上品で高級な小物も使わず、つまり彼女の社会的背景を示すようなものは何も写りこんでいません。
そこにあるのは、ひとりの非常にエレガントな女性についての、原始的なまでにシンプルな記録なのです。
このシンプルさは、実は見せかけのものです。
おそらくこの写真の本質は、モデルの小さな美しい頭部を紙の切れ端で隠してみたときにより明確になることでしょう。
その状態で「これは女性の身体だ」と認識できるのは我々現代人だけに違いありません。もし19世紀の人々がこれを見たら、ランなどの植物のシルエットか、はたまた尼僧か、アヤメの花の根っこか何かだと思うかもしれません。
ドレスの描写に関しては、さらに曖昧です。
この写真だけ提示されても、撮影された1950年代のファッションについて多少なりとも知識がある人間でなければ、このドレスがどのような作りなのか分かる人はまずいないでしょう。
この写真の真の主題は、モデルのシルエットが描き出す、曲がりくねった、虫の蠕動運動を連想させるような豊かで繊細なラインです。
そのラインはモデル自身や衣装を表現しているのではなく、彼女とデザイナーが追求した「花のように美しい優雅さ」の理想形といえます。
1950年、アーヴィング・ペンはこの写真のモデル、リサ・フォンサグリーブスと結婚し、1953年に自分のスタジオを設立しました。1992年、リサ夫人が亡くなりましたが、2002年にはメトロポリタン美術館で、2005年にはワシントンのナショナル・ギャラリーで展覧会が開かれました。
2009年10月7日、彼はマンハッタンの自宅で亡くなりました。92歳でした。
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アーヴィング・ペンの最重要作品がプラチナプリントまたはパラジウムプリントで収録されている美しい写真集。ファッション写真のほか、ピカソやマルセル・デュシャンのポートレート、ニューギニアとペルーの先住民、静物など。必見です。
- 私は常にカメラに対する畏怖の念をもってきました。あるいはストラディバリウスのバイオリンのように、あるいは外科手術用のメスのように認識しています。























